第2章 転調:巡り合った二人と二人
死神デスとの会話を終えたアルカードは
悪魔城入り口付近でひたすら現れるゾンビを
斬り倒しつつ、奥へと進んでいた。

(どうする・・・ 地下水路の方へまわるか)

ズバッ!! 近寄るゾンビの首を跳ね飛ばす。

(それとも錬金術研究塔から登るか・・・)

ザシュッ! 背後に迫った別のゾンビを袈裟掛けに斬る。

(・・・まてよ。まずは蔵書庫に行ってみるか。
 少しでも情報が欲しいところだからな。)

ドカッ!! 足元から現れたゾンビを蹴り飛ばした。

(よし。行くか)

アルカードは蔵書庫の方へ足を向けた。

   *     *     *

さて、こちらは別のつり橋から城内に入ったリヒター。
アルカードと同様に、最初のザコ敵ゾンビをビシバシと
ムチで薙ぎ倒していく。

単調な攻撃が続くな、と思っていると
背後の壁を突き破って、巨大な何かがリヒターに迫ってきた!

(ベヒーモスデッドか、以前と同じだな。)

移動はゆっくりだが、その力は強烈だ。
倒すのは不可能ではないが、今の手持ちのアイテム「ナイフ」では
少々心もとない。
リヒターはベヒーモスを振り切るべく、歩みを速める。

ふと、頭上にあるロウソク台が目に入った。
以前ここに来た時に、アイテム「カギ」が隠されていたロウソクだ。
(まさか・・ マリアが、またあそこに・・?)
背後のベヒーモスとの距離を確認したあと、
リヒターはそのロウソクにムチをふるった。

    ピシッ    カチャーン

ロウソクは乾いた音をたてて砕け、そこから
アイテム「カギ」が現れた。
リヒターは素早くそれを拾い上げると、
すぐ近くまで迫ったベヒーモスを振り切るべく
スライディングを繰り返して離れ、
次の部屋へ続く扉に飛び込んだ。

(いかん、速く上にあがらなくては)

ベヒーモスはまだ追ってくる。
リヒターは手近な足場に飛び上がり、さらに上の足場へ登った。
それとほぼ同時に、さっき入ってきた扉を壁ごと突き破り
ベヒーモスが突っ込んできた!
しかし、リヒターは目の前にはいない。
そのままベヒーモスは石壁にぶつかり、断末魔の叫びを
上げながら消滅した。

(しょせんは脳ミソの腐ったモンスターか。哀れだな)

リヒターは一息つくと
さっき手に入れた「カギ」を改めて見た。

(これが手に入ったということは、
 きっとあの部屋もあるはず・・・行ってみるか)

手がかりを得たリヒターは
6年前にマリアを助け出した部屋のあった場所へ向かった。

    *     *      *

   カチ・・・   カチ・・・    カチ・・・

時計が針を刻む音が、静かな廊下に響く。
悪魔城のほぼ中心に位置する「大時計」が動く音だ。

蔵書庫へ向かっているアルカードが
その大時計の前を通り過ぎようとした、その時である。

「待て、そこの男。」

アルカードの背後から誰かが呼びかけた。
大声ではないが、やや威圧感のある鋭い声。

(・・・!?)

アルカードは振り向くより前に、その声の主から
記憶に残っている、ある気配を感じとった。

(この血の匂い・・・ よもや再び会うことがあるとはな。)

アルカードはゆっくりと、声の主の方に向き直った。
それを見て、呼びかけた人物・・・ リヒターは言葉を続ける。

「お前・・・ 闇の力をもっているな。
 この城に来た目的は何だ?」

アルカードは一瞬考えた。
本当のことを話すべきか、それとも適当にごまかすか・・
結論はすぐに出た。

「・・・この城を消すこと。それだけだ。」

それを聞いて、リヒターはアルカードの目を見据える。

「オレと同じ目的か・・・ 嘘をついているようには見えんな。
 その言葉、とりあえず信じておこう。」

そう言うなり、リヒターは持っているムチをアルカードに振るった!
アルカードは素早く剣を抜き、ムチを払いのけた。

「ほぅ、大した腕だ。それなら、お前の心配をする必要はないな。」

リヒターはムチを納めた。
アルカードも剣を鞘に納める。

「・・・お誉めに預かり、光栄だな。
 名を承っておきたい。」
表情一つ変えずに話すアルカード。

「無愛想なやつだな・・・ まぁいい。
 オレはリヒター。 リヒター・ベルモンド。
 ヴァンパイアハンターだ。 お前は?」

「アルカードだ・・・」

「ほう・・・ わが祖先、ラルフと共に
 ドラキュラ伯爵を倒したといわれる、あの男と同じ名前か。」

(・・・その本人だっつーの)
アルカードは心の中でツッコミをいれる。

「なんでもそいつは、えらい「オヤジ似の顔」のうえに
 使えない攻撃しかできず、足を引っ張っていただけだったと
 伝えられているがな。 はっはっはっ」

(・・・(ーー#) ソウルスティールかましてやろうか)

「生きていたら、また会おう。じゃあな。」

リヒターは言いたいことを言って、先の通路へ進んでいった。
あとに残されたのは、やり場のない怒りを抱えたアルカード。

(一度ゆっくりと話さねばならんな・・・ あいつとは)

とりあえず怒りを抑えるため、
アルカードは近くの壁にヘルファイアをぶつけた。

そして気を取り直して先へ進もうとしたとき

          カチャン

足に何かが当たった。
見てみると、それはアイテム「カギ」だった。

(見たことのないアイテムだな。
 たしか・・・ どこかの扉を開くためのものだったか。)

アルカードは記憶をたぐって、そのカギのための扉を思い出す。

(・・・そうだ。地下水路の入り口近くに
 カギのかかった部屋があったはずだ。
 ここからなら、そう遠くない・・・ 先に行ってみるか。)

カギを落としていったリヒターの足どりも気にはなったが
アルカードは方向を変え、地下水路の方へ向かった。

       *    *    *

ザァ・・   ザァ・・・   ザァ・・・・・

水の流れる音が、辺りにこだまする。
時折、その水の中から飛び上がってくる半魚人たち。
浮かんでは消える、アルカードに斬られた半魚人の残骸。

ここは悪魔城下部に位置する地下水路の入り口。
その片隅に、アルカードの目的の扉があった。

(ここだ・・・)

アルカードは「カギ」を使った。

 ゴゴゴ・・・・

と低い音をたてて扉が開いた。
アルカードは注意深く中に入る。

そこで彼が目にしたものは・・・!?



そこにいたのは、一人の暗黒神官。
あの「シャフト」ほどの力は、持ってはいないようだ。
が、何かの儀式を行っているらしく、
部屋に入ってきたアルカードに気づいていない。
ひたすら、何かの呪文の詠唱を続けている。

アルカードはさらに部屋の中を見回した。
そして見つけた。
暗黒神官の前の魔法陣。
その上でフワフワと浮かんでいる、一人の少女を。

(召還魔法陣・・・ あの少女は生け贄か・・・!?)

アルカードは剣を抜き、音もなく暗黒神官に近寄った。

「!?」
喉元に剣を突き付けられ
初めてアルカードの存在に気づいた暗黒神官。
それでも、呪文の詠唱は止めない。

「・・・答えろ。 ここで何をしている?」

静かな声でアルカードが問う。

「・・・・・・・・・。」

呪文の詠唱が止まった。
その次の瞬間、暗黒神官は口元に微かな笑みを浮かべると
自ら剣に体を突き立てた・・!

「なっ・・・!?」

アルカードが驚く間もなく、
暗黒神官はかき消されるように消滅した。

(何故だ・・・? 自分から消滅する理由がどこにあるというんだ)

しばらく、剣を見つめて考え込むアルカード。
しかしすぐに頭を振るって余計な考えを振り払い、
剣を鞘に納めた。
そして、魔法陣の前に立った。


アルカードが魔法陣に手をかざすと、
宙に浮かんでいた少女が、フワフワと浮いた状態のまま
ゆっくりと降りてくる。
ややぐったりとした感じで、意識はないようだ。
アルカードの目の前の高さまで降りてきた時、
少女を抱きかかえるかのように、アルカードは受け止めた。
その瞬間、魔法陣から放出されていた魔力が途絶え
少女の重みがアルカードの腕の中に伝わった。

(このような少女が、なぜこの城に・・・?)

アルカードは、改めて少女を見た。
年のころ12歳位。ピンク色の可愛いドレスがよく似合っている。
頭には赤い大きなリボンをつけ、快活な印象を受ける顔立ち。
そして、なぜか豊かなムネ。
思わずアルカードはひょい、と目を逸らした。

「ん・・・」

少女が微かに身動きをした。
意識を取り戻したようだ。

「気がついたか。」

「んん・・・ ?」

すぐに少女は目を覚ました。
パッチリと開いた、まだ幼さの残るくりくりとした瞳。
その目線は、すぐにアルカードの方に向いた。

「あ・・・ お兄ちゃん、だぁれ? いいひと?」

人なつっこい声で、少女が尋ねる。

「・・・オレの名はアルカード。 君は?」

やさしくアルカードは答える。

「ん・・・  ↓   ↓」

その時、少女は自分が「お姫様ダッコ」をされているのに
気づいたようだ。
少々気恥ずかしいのか、「下ろしてほしいな(*^^*)」
とばかりに、目で床を示す。
その仕草に気づいたアルカードは
少女をゆっくりと床に下ろした。

少女はスカートをぱたぱたとはたくと
改めて笑顔でアルカードを見た。

「えへへっ。 わたしは、マリア・ラーネッド。
 お兄ちゃん、初めて見る顔だねっ。
 でもとってもキレイ。」

「・・・それはどうも。
 で、マリア。君はなぜこの城に?」

「うん。悪いおぢちゃんをやっつけに来たんだけど、
 つかまっちゃったの。
 マリアの家、バンパイアハンターなんだよっ!」

得意げに答えるマリア。

(フフ・・・「悪いおぢちゃん」か。父上もかたなしだな。)

「? なにがおかしいの? お兄ちゃん。」

「いや、なんでもない。」

「ところで、お兄ちゃんの方は
 なんでこの城に来たの?
 もしかしてお兄ちゃんもバンパイアハンター?」

「いや・・・ そうではないが。
 まあハンターと似たようなものだな。」

「ふーん。わたしと『どうぎょうしゃ』なんだ。
 それじゃあ今から『ともだち』だねっ!」

マリアは手を差し出した。

「・・・『ともだち』か。フフ・・・」

マリアの可愛い仕草に、思わず顔がほころぶアルカード。
アルカードも手を差し出し、二人はそっと握手をかわした。

「えへへっ。 お兄ちゃんの手、おっきくてあったかいね。
 なんだか気に入っちゃった。」

にこにこと微笑むマリア。
アルカードは、久しく感じたことのない温もりが
心の奥に染み込んだ気分になった。



「で、マリア。君はこれからどうするつもりだ?」

「もちろん、悪いおぢちゃんをやっつけにいくよっ。」
ガッツポーズをとってみせるマリア。

「フフ、勇ましいのは結構だが、まだ幼い君にはムリだ。
 伯爵を倒すのは、このオレに任せておく方がいい。」
マリアの頭をポンポンと撫でながら、アルカードは言った。

「むぅ〜っ! そんなことないもんっ。マリア、平気だもんっ!」
頬をふくらして見せるマリア。

「フッ・・ あははははははは!」
その仕草がまたおかしくて、アルカードは思わず笑ってしまった。

「あ〜っ、笑ったな〜っ!(ーー#  バカバカバカぁっ!」

アルカードの体をポカポカとたたくマリア。

「はっはっはっ、すまないすまない。」
まだ笑いながら、マリアをおさえるアルカード。

「どうしても帰る気はないのだな? マリア。」
笑いをピタリと静め、今度は真顔でマリアに尋ねるアルカード。

「・・・うん。」
マリアも、真面目な顔で答える。
アルカードはマリアの両肩に手をおき、
マリアの目をじっと見つめて言葉を続ける。

「・・・わかった、もう止めはしない。
 オレはこれからこの城の最上部へ向かう。
 ついて来るなら来るといい。
 ただし、自分の身は自分で守るんだ。
 君もバンパイアハンターであるなら、な。」

「・・・うんっ!」
満面に笑顔を浮かべるマリア。

「よし、いい返事だ。では行くぞ・・・!」

「うん、ありがと、お兄ちゃんっ!!」
 ガバッ!
マリアがアルカードに抱きつく。

「おいおい・・・  ・・・!?」

   むに。

マリアの体の感触が、アルカードに伝わる。
なにやら柔らかいものがアルカードの体に押し付けられた。
どうやらマリアのムネのようだ。

(本物か・・・)

「・・・どうしたの? お兄ちゃん。」

「ん・・、いや、何でもない。 さ、さぁ、行くぞ。」

「顔が真っ赤になってるよ? ヘンなお兄ちゃん。」


   *      *       *

こうして宿命の魂たちは、お互いに巡り合った。
さらに数奇な運命が待ちかまえていることを、
彼らはまだ知る由もない。

はたして悪魔城最上部で待ちかまえているのは・・・?


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